数唱範囲課題(digit span task)を公開しました

郵便番号は「○○○-○○○○」というように7桁。電話番号も家庭用では多くの地域で市外局番を除けば7桁。ひとり1台もつ携帯電話は7桁では足りないので,最初の3桁の番号を除いても8桁になった…すると,突然覚えにくくなった。多くの人が経験していることではないでしょうか。

情報を一時的に記憶するシステムを「短期記憶」と呼び,その限界容量(記憶範囲)は「7±2」と言われます。その根拠となる心理実験課題のひとつが「数唱範囲課題(digit span task)」と呼ばれる課題で,この課題は多くの知能検査セットにも含まれています(検査では,口頭で数字を言って,口頭で回答を求めるものがほとんどです←だから日本語では「数唱」という言葉を使います)。

この短期記憶,単なる一時的な情報の貯蔵庫ではなく,その中で情報を操作するのにも使われることから,近年は「ワーキングメモリ(working memory)」と呼ばれることが多くなりました。
ワーキングメモリは,人が何か目標をもった行動をするとき,課題の遂行に必要な情報を活性化した状態で保持する機能をもつことから,私たちの日常生活を支えるとても重要な脳機能として注目されています。何かを取りに部屋に来たんだけど…あれ,何しに来たんだっけ?…と,行動の目標を忘れてしまった経験は誰にでもあるでしょう。

最近,私のゼミでは,このワーキングメモリや実行機能・遂行機能と呼ばれる脳機能を調べる研究をする学生たちがいます。もちろん,地方の小さな大学の心理学研究室だから超先端的な研究というわけではないのですが,ICT(情報コミュニケーション技術)を活用していろんな課題を実際に作ってみて体験的に研究できるのがうちの強み(よしだがしこしこ作ってます…時間くれ~>大学)。

今年度,ゼミの卒論研究で,もっとも基本的なワーキングメモリ課題である数唱範囲課題のWindows版プログラムを作って使ったので,それをお正月休みを使ってリファインして公開してみました。詳細は以下のURLをご覧ください。ホームページ上で体験できるプログラム(Web版)も用意していますから,パソコンをおもちなら気軽に試してみることができます。

【プログラムページ】

 


 

さて,この数唱範囲課題,昔からコンピュータ版を作ってみたいと思っていたんです。

いろいろな場面で使える汎用性の高い課題だということもあるのですが,半世紀以上も前に書かれたある論文の実験結果にちょっとした疑念と興味をもっていたからなのです。本当にそんなことはあるのだろうか,もしそうならばこれを使っておもしろすごい!ことができるかも…という妄想… (^^;)

…で,今,予備実験を通して目途が立ち,院生(M1)と学部3年生の共同チームではじめようとしている実験の様子をお見せしましょう(下のビデオ)。30桁の数字を覚えて,正しく再生した瞬間です!

ちなみにこのビデオで課題をやっているのは私自身なのですが,30桁いけることを示してくれたのは私より学生が先でした(よしだ負けましたわ… ^^;)。どうもこの芸当?は,誰でもできそうなのです。

でも,自分でやっておきながら,(認知心理学者の端くれとして)これがいまだに信じられない…なぜできるのかがわからないのですよ。特別な記憶術を使ったり,カンニングしているわけではありません。しかも授業で高校生たちに見せようとこれを録画したときは,ゼミ生たちとおしゃべりしながら課題をやっていたんです。大して集中しなくてもできてしまう。工夫や方略を使わず,ほとんど努力もしていないから,自分自身,なぜできるかを説明できないという不思議…これまで経験したことのない経験。

昔の雑誌や新聞に「らくらく記憶術」とか「寝ている間に覚えられます」みたいなあやしい広告がありましたが,記憶ってそんな簡単なものでないのは明らか…なのに…です。

私たちの脳って,ものすごい可能性を秘めているのはどうやら間違いありません。

(この話…続く←研究結果が出るのは1年後… ^^;)