数唱範囲課題(Digit Span Task)

このプログラムについて

ワーキングメモリ(短期記憶)の容量(記憶範囲:メモリスパン)を調べるのに広く使われている数唱範囲課題をWindows PC上で動作するプログラムにしたものです。読み上げられる数列を覚えて,正しく再生できる限界容量(記憶範囲)を測定します。再生するときに,提示された順番で再生する「正順再生(順唱)」と,提示された順番を頭の中で入れ替えて最後の数字から再生する「逆順再生(逆唱)」の2種類を設け,ワーキングメモリの中で情報を操作する能力の一部も調べることができます。また,Drachman & Arbit(1966)が海馬損傷患者が長期記憶の形成ができないことを示した研究で用いた課題を参考に,拡張数唱範囲についても調べられるモードを加えましたので,長期記憶形成能力の評価・訓練に使えるものと(私たちは)期待しています。

本プログラムは,最初のバージョンは,科学研究費助成事業(基盤研究(C),課題番号19K03389,「センサ技術を活用した障害児の認知機能評価・発達支援プログラムの開発」)の補助を受けて開発され,2022年度の卒論研究(大可亜未・田室遥貴・平本三奈「ワーキングメモリと日常生活上の問題について」)において使用しました。現在の公開バージョンは,藤井祐利・倉本菜生・須磨望美・吉田弘司(2023)「魔法の数字7の向こうに何がある?―拡張数唱範囲課題を用いた長期記憶形成能力の評価―」(日本心理学会,2023年9月15日発表)で用いたプログラムで,今年度の卒論・修論研究で使っているものです。

拡張数唱範囲課題として使えるモードを追加しました。(2023/9/15)

 

下の図は,学生さんの「拡張数唱範囲」を調べたときの試行数と提示桁数(成功すれば桁数は増えていきます)を示したものです。ご自身でやってご覧になるとわかりますが,この図のように,多くの参加者で,40試行程度で30桁の数列の記憶-再生ができるようになります。私たちの研究では,この能力には大きな個人差があるのですが,訓練すればだれもが数唱範囲を増やすことができることがわかっています(私たちのデータでは11名の参加者の平均で最初は16.6桁だった記憶範囲が30.6桁へとおよそ2倍に拡大しました。測定される記憶容量が訓練によって2倍に伸びる課題なんて,過去にあったでしょうか? ← 大きな可能性を感じています ^^)。

引用文献

  • Drachman, D. A., & Arbit, J. (1966). Memory and the hippocampal complex: II. Is memory a multiple process? Archives of Neurology, 15, 52-61.

 

Web版プログラムについて

このプログラムには,ホームページをご覧のブラウザ上で動作するWeb版があります。データの記録機能がありませんが,手軽に試してみることができます(ブラウザによっては対応していないことがありますがご容赦ください)。

Web版 数唱範囲課題

数唱範囲課題(Web版)をやってみる

  • v1.020から,デフォルトの設定を上昇系列のみ(反応転換数を「0」に設定)に変更しました(2回連続間違えると終了します)。
  • 拡張数唱範囲課題を体験するには,反応転換数は「0」のまま,連続エラー数を「3」(3回連続で間違うと終了←もっと多くてもかまいません),Random Seedを「1」など(1以上の任意の数)にしてプログラムを実行すると,どのようなものかが体験できます。
  • このWeb版プログラムは,Windows版をもとにしているので,メニュー画面で[ESC]キーを押すと画面は変わりませんがプログラムは終了しています(なのでもう反応しません)。その場合は,ブラウザのタブを閉じて,再度開き直してください。
  • English version (short-term memory)
    • This version is compiled in English mode.
  • 旧版(v1.010)はこちら
    • v1.020から画面の使い方を変えたので,旧版が必要な方はこちらのリンクをお使いください。

 

動作環境

ハードウェア

  • Windows PC
  • 画面タッチやマウスクリックでも回答できるようにしていますが,キーボード(10キー)があった方が使いやすいと思います。

 

OS

  • Windows 11(64ビット)で開発・動作確認を行っています。

 

使い方

ダウンロードしたら

zipファイルをダウンロードした後,まず「右クリック」→「プロパティ」を選択して,「このファイルは他のコンピュータから取得したものです…アクセスはブロックされる可能性があります。」という記述の横の「許可する」にチェックを入れて,ブロックを解除してください(これをしないと,実行時に「WindowsによってPCが保護されました…不明な発行元」というダイアログが出たり,異常に長い起動時間がかかることがあります)。

その後,「DigisSpan01020_release」というフォルダごと解凍してください。

 

プログラムの実行

プログラム(DigitSpan01.exe)を起動すると下のような条件設定画面になりますので,課題の実施条件を設定します。

  • 参加者ID…参加者ID(名前や参加者コードなど)を入力します。
  • 正順再生・逆順再生…どちらかを選んでください。「正順再生」は,画面に提示される数字列を覚えて,提示された順番に再生します。「逆順再生」は,提示された順番と逆の順番で再生します。
  • 開始レベル…最初の試行で提示される数字列の桁数(レベル)を指定します。
  • 反応転換数…プログラムは精神物理学的測定法の階段法(上下法)を用いて,参加者の記憶範囲の上限を調べるように作っています。この階段法では,まず誰もが正解するような簡単なレベルからはじめて,参加者が正解すればレベルを難しくしていきます(桁数を増やします;上昇系列)。参加者が失敗すると(エラー試行),そのときの桁数(レベル)を正解からエラーに反応が変わった反応転換点として記録します。参加者がエラーをした後の試行では桁数を減らして簡単にしていき(下降系列),エラーから正解に変わるとそのときの桁数を転換点の記録に追加し,次は難しくしていきます。これを数回繰り返すことで参加者の記憶範囲の閾値(限界値)を精密に測定します。転換点の平均値を計算することで記憶範囲を求めるので,この反応転換数には基本的に偶数を設定します(上昇系列試行と下降系列試行の数を同じにするため)。
    • なお,反応転換数に「0」を指定すると,桁数を増やしていく上昇系列のみになります。そのときには,この下の「連続エラー数」が意味をもちます(その際,階段法で測定された記憶範囲との比較はできません)。
  • 連続エラー数…上の反応転換数に0を指定すると,上昇系列のみの測定条件となります。そのときは,この欄に指定された数だけエラーが続くと課題は終了します(1以上の数を指定してください)。
  • Random Seed…「」を入れておくと,プログラムは毎回異なる数列を作りますので「短期記憶」を測定する一般的な数唱範囲課題となりますが,「1以上」の整数を入力すると,プログラムはそのSeed値によって独自の数列を発生するようになります。そのため,最初の試行で「8, 9, 2」と提示されたら,次の試行は「8, 9, 2, 4」というように,正解すると最後の桁に新しい数字を加えていくように変わります。ここでは,Drachman & Arbit(1966)に従って,これを「拡張数唱範囲」(extended digit span)と呼びますが,このモードではある種の「長期記憶」の形成能力の評価が可能になります(無意味な情報を繰り返すことによって形成される長期記憶であり,有意味情報からなる一般的な長期記憶とは異なるという点で,「ある種の」と書いています)。
  • 結果を見る…このボタンを押すとこれまでの結果が順位表形式で表示されます。
  • 終了時に結果を表示…これをチェックしておくと,課題が終了した後,自動的に順位表が表示されます。
  • English…画面のメッセージと音声が下の画面のように英語に変わります。

プログラムを終了するには,条件設定画面で[ESC]キーを押してください。

 

課題画面

課題がスタートすると,1秒ごとにレベルの数だけ数字が画面に表示されて,同時に音声がそれを読み上げますので,その数字を覚えてください。

最後の桁が表示された1秒後,「ピッ」という音とともに回答ボックスが下に提示されますから,覚えた数字を入力します。このとき,バックスペースキーで入力ミスの訂正が可能です

すべての桁を回答すると答え合わせが行われ,正解の桁は緑枠で示されます(間違ったところは赤枠で示されます)。次のレベルを示すボタンをクリックするか,エンターキー/スペースキーを押すと次の試行に進みます。

課題画面の右上には,階段法のときは「Rev:(2/4)」というように現在までの反応転換の「カウント値/設定値」が,上昇系列のみのときは「Err:(0/2)」というようにそのレベルでのエラー数の「カウント値/設定値」が表示されます。

 

結果の表示と順位表示

課題を行って終了条件を満たすと,プログラムは測定された記憶範囲を「あなたのスコアは○.○○」というように画面に表示します。

最初の条件設定画面で「終了時に結果を表示」がチェックされていたり,「結果を見る」ボタンを押したときは,下の画面のように記録の一覧が順位表形式で表示されます。表示項目は,順位,日時,正順再生(Fwd)/逆順再生(Bwd)の区別,反応転換数の設定値,測定された記憶範囲の記録,参加者IDです。

 

データファイルなど

このプログラムでは,「data」フォルダ内に以下のファイルが自動作成されます。

 

_param.txt

最初の画面で設定する課題の実施条件が記録されたファイルです。このファイルを削除すると,プログラムの設定はデフォルト(初期設定)に戻ります。

  • participant … 参加者IDです。
  • flag_reverse … 正順再生であれば0,逆順再生であれば1になります。
  • start_level … 開始レベルが記録されています。
  • max_reversals … 反応転換数(終了条件)が記録されています。
  • max_errors … 連続エラー数(終了条件)が記録されています。
  • rnd_seed … random seedの値が保存されています。
  • flag_show_result … 終了時に結果を表示するかどうかが1か0で記録されています。
  • flag_english … 英語モードであれば1(そうでなければ0)になります。

 

_DigitSpan01.csv

これまでに実施した課題の結果のサマリー(集約データ)を保存しているファイルで,以下の項目を含むカンマで区切られたテキストデータファイルです。

  • Participant … 参加者ID
  • Date … 日付
  • Time … 時刻
  • Backwd … 0:正順再生,1:逆順再生
  • NRevs … 反応転換数
  • RndSeed … random seed値
  • Score … 測定された記憶範囲(結果)

このファイルを削除すると,過去の成績データがすべてクリアされます。

 

日付_時刻.csv

課題遂行中の詳細が記録されたデータファイルです。
このファイル内のデータ項目の意味は次の通りです。

  • Participant … 参加者ID
  • Date … 日付
  • Time … 時刻
  • Backwd … 0:正順再生,1:逆順再生
  • MaxRevs … 終了条件として設定された反応転換数
  • RndSeed … random seed値
  • Trial … 試行番号
  • Level … レベル(桁数)
  • StimStr … #提示された数字列
  • RespStr … #参加者が回答した数字列
  • RT1 … 反応ボックスが出た後,最初の桁を入力した時間
  • RT2 … 最初の桁を入力しはじめて最後の桁を入力するまでにかかった時間
  • Error … 回答を間違った桁の数
  • Rev … 反応転換が生じた試行の反応転換のカウント値

 

制限事項等

作者(吉田)は,このプログラムの動作を一切保証するものではありません。また,このプログラムを動作させたことによる一切の損失・損害に責任を持ちません。ご自身の責任のもとでお使いいただくようお願いします。

課題実行中に中断したいときには[ESC]キーを押してください。その際,dataフォルダ内に[日付_時刻.csv]ファイルが作成されて中断前の試行までのデータが残りますので,不要な場合は削除してください。なお,[_DigitSpan01.csv]には一切の記録は残りません。

 

その他

プログラム内の日本語音声・サウンドは効果音ラボさんのフリー音声素材を利用させていただいています。英語音声はGoogle社のtext to speechによるものです。記して感謝します。

 

ダウンロード

プログラムは,「DigitSpan01010_release」という名前のフォルダごとzip形式で圧縮されて1つのファイルになっています。ダウンロードした後に,必ずフォルダごとすべてのファイルを解凍してからお使いください。

 

バージョン情報

  • v1.002…最初の公開バージョン(2023/1/6)
  • v1.003…バックスペースキーで反応を取り消した際にrt1の値がリセットされてしまうバグを修正(2023/5/19)
  • v1.010…PC版(公開用,実験用)とWeb版のソースコードを統一し,英語モードを追加(2023/7/29)
  • v1.020…拡張数唱範囲課題のモードを追加(2023/9/15)