迷路検査のゲーミフィケーション

ちょっとマイナー?な神経心理学的検査のひとつにポーテウス迷路検査(Porteus Maze Test; Porteus, 1959)というものがあって,レザックの「神経心理学的検査集成 第3版」(Lezak, 1995;日本語訳,2005)によれば,「計画性」や「先の見通し」に関する高次脳機能について検査することができるそうです。実際,小児用ウェクスラー式知能検査の第3版(WISC III)まで,検査には迷路が含まれていました。なぜなくなったのかはよく知らないのですが,迷路検査は子どもの衝動性を見るのに便利だったというような現場の声もあるようです。

前頭葉機能を調べる検査には面倒な検査が多いのですが,前頭葉機能に問題をもつ方たちは基本的に面倒臭がりなので,単にやる気を測っているように感じることがよくあります。迷路というゲームで測ることができるなら楽しんで積極的にやってくれるかもしれないので…じゃあ調べてみよう!…と,今年の卒論研究のひとつに取り上げてみて実験を計画しています。

コンピュータを使えば,迷路なんていろいろな難易度のものを簡単にしかも無限に作りだすことができますから,遊びを通して,楽しく前頭葉機能の評価(や訓練)ができるかもしれません。

…といって始めたものの,プログラミングでえらく苦労することになってしまいました(このプログラムだけで夏休みになっちゃいました…4年生たち…待たせてすまぬ… orz)。

でも,せっかく苦労するならと,アイトラッカーによって視線分析ができるようにしてみました。下のビデオはサンプルとして,ゲーム用のアイトラッカーで視線を表示させながら縦横20の通路をもつ41×41コマの迷路を解いているところです(実験には研究用のアイトラッカーが必要です)。この迷路課題では,赤いボールをジョイスティックで動かしてゴールを目指します(操作性はまだ改善しなきゃならないかもしれません)。

 

この迷路のルートを探索してみると下の図のようになります。小さな番号はスタート地点を0として,そこからのコマ数単位の距離です。

上のビデオで赤いボールを動かした奇跡を,横軸を時間,縦軸をスタートからの距離にして,正解ルートにあるときを青い点,ルートからそれたときを赤い点で表すと下の図のようになりました(上の配色と逆ですみません)。開始から20秒ちょっと経ってから動き始めているのがわかります。その後はほぼ一直線にゴールを目指していますね。

そして,下の図は,同じやり方で注視位置をプロットしたものです。正解ルートを見ているときを緑の点,正解でない場所を見ているときを赤い点で表しています。これをみると一目瞭然,参加者は,まずゴールから逆にたどりながら正解のルートを探して,正解がわかってから動き始めているのがわかります。この作業に20秒かかったわけですね。細かく見ると,最初は正解でないルートに入っていることなどもわかりますし,それが違うとわかったら,そこから出発点(この場合はゴール)へ一気にサッケード(急速眼球運動)で戻っていることもわかります。その後の探索眼球運動も(ビデオでは結構テキトーに動いているように見えるのですが)的確に正解のルートをとらえていることが,データからわかります。

卒論研究グループの学生たちでやってみたら,人によって迷路の解き方が違うことがわかります。視線を使えば,このように,心の中で何が行われているのかを垣間見ることができます。まさに「目は心の窓」なのですね (^^)。

私のゼミでは,今年から児童発達支援をフィールドにした研究を再開する予定です。私たちが得意とするのは,遊びを通して子どもたちの認知機能を評価したり,苦手とする課題を楽しみながら訓練すること。その中で,このようなテクノロジーをツールとして活用することが,科学的エビデンスに基づく子どもの理解であったり,より効果的な訓練のために重要な役割を果たすと期待しています。

コロナ禍で悶々と過ごした3年あまりの時間を取り戻すことはできないけれども,その間にこちらも少しだけですがスキルアップしているし,それをこれから現場で役立てたいですね。