12: 面接法

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(公開日:2020年7月2日)

今日のお話は「面接法」についてです。でも,私は実験心理学者なので,面接法なんてほとんどまともに習ったことありませんから (^^;),今日の内容は主に前川(2017)を基本にしながら,簡単に書かせていただいてます。面接技法の詳しい解説や,それを訓練するロールプレイングなどは,「心理演習A」でも行われていることと思いますし,私たちの学科には臨床心理士教員が10名もいますので(うち8名は公認心理師),面接法の詳しいところは,ぜひ臨床心理学系の授業でみっちりと学習してくださいね (^^)。

 

臨床心理学と面接法

心理学という学問は,部外者から見るとひとつの学問として見られますが,中に入ると,そこには「○○心理学」というたくさんの専門領域があって,それぞれの領域がひとつの学問といえるくらい高度に専門化した研究を行っています。

その中で,研究手法として「面接法」を用いることで特徴的な領域があって,それが「 臨床心理学」です。「心理学」を使った仕事といえば「カウンセラー」を連想する人も多いと思います。カウンセリングは,臨床心理学が行う心理相談や心理援助を目的とした面接技法であり,臨床心理学は長年にわたって専門的なカウンセラーの資格である臨床心理士の養成を行ってきました。

臨床心理学は,個人(たいていは何か心理的・社会的に不適応な状態にある人) に直接出会い,その人の感情や思考,行動などを理解し,その人が抱える問題を解決できるようにその人の状態や状況を評価し,必要な支援を考え,実行します。そういう点で,人間という存在を理解するために,個人よりも全体的な集団としての人間の共通特性を,科学的・統計学的に明らかにしようとする認知心理学などの基礎系の心理学領域とは,臨床心理学は研究の目的もその研究方法も大きく異なります。

臨床心理学においては,まず,「個別性」が重視され,そこでは,ひとりひとりの個人の姿を具体的にとらえようと試みます。また,個人という存在を「関係性」という概念からとらえることも重視されます。そこでは,人と人のかかわりや,個人と環境との相互作用のあり方などが問題となります。

面接法」という方法では,何らかの目的をもって,直接人と出会い,コミュニケーションを行い,それを通して,理解を深めたり,支援を実行したり,新しい理論を構築したりします。したがって,個人の姿を関係性の上でとらえようとする臨床心理学において,面接法は非常によく用いられる研究方法となっているわけです。

 

面接法の種類

面接法には,大きく分けて「心理臨床的面接」と「調査的面接」があります。

心理臨床的面接」には,(a) 進路や職業選択などのために,個人の適性や能力を評価し助言や指導を行う「評価・ガイダンス的面接」,(b) 個人の抱える問題の質や病理性を診断し,適切な治療方法や支援方法を決定するための「診断的面接」,(c) 不適応に陥っている個人と会い,コミュニケーションを通して信頼関係を形成する中で,その人が自己理解を深め,自らの問題を解決し,より適応的に生きていけるように心理的に支援する「心理相談的面接」があります。

調査的面接」は,ある調査目的にしたがって特定の個人と会い,その人から情報を収集して仮説を検証したり,理論を構築するものです。心理学の「研究法」として用いるのは,主にこの調査的面接と言えます。しかしながら,臨床心理学領域における実際の研究では,心理臨床の場面やクライアントが対象となることも多く,そういう意味では,調査的面接であっても,心理臨床的面接との重なりも自然と大きくなります。

また,面接法は,その構造化の程度により,「構造化面接」,「非構造化面接」,「半構造化面接」に分けられます。

構造化面接」では,対象者に尋ねるすべての質問があらかじめ決まっていて,順番も変えずに,どの対象者にも同じように尋ねます。これは,質問紙法を,書き言葉ではなく,話し言葉で進めるようなものです。ただし,質問紙との違いとして,面接者は,対象者の様子を見ながら質問に対する回答の意味することがらを解釈することができます。また,「はい」か「いいえ」の二者択一ではなく,対象者の具体的説明や選択の根拠を個別に確認することもできるという利点があります。

非構造化面接」は,大きなテーマや目的のみを設定しておくだけで,対象者に自由に語ってもらうような面接法です。したがって,面接は被面接者主導で行われます。自己洞察や自己探求に焦点を当てることが多い心理臨床場面における事例研究では,この非構造化面接が用いられることがあります。

半構造化面接」は,上の2つの面接法の中間に位置する面接法と言えます。半構造化面接では,主要な質問と,回答内容に応じて枝分かれする質問をあらかじめ準備し,被面接者の語る内容を聞きながら,途中で質問を足したり,質問の順序を変更したりして面接を進めます。研究法としての面接法としては,近年では,この半構造化面接がもっともよく用いられる方法と言えます。

 

面接における「言葉」

「言葉」は,外からは容易に観察できない人間内部の感情や思考といった内的体験を,具体的な意味として,他者に明らかにする働きをもっています。また,言葉にすることで,面接対象者自身が自分の体験をとらえなおしたり,その体験に対する意味づけを再吟味したり,自分で理解を深めていったりすることも多く,言葉は,自己認識や自己理解を深める働きももっていると言えます。

しかし,被面接者は,意識している体験であっても,すべて言葉にできるわけではありません。言葉にできない体験は,話す速度や話し方,沈黙,表情や姿勢,しぐさなどからうかがい知ることができます。そのため面接者は,被面接者の言葉を受け取りながら,同時に言葉を超えた情報を受け取って行きます。 時に,言葉とそれ以外の情報にずれや矛盾が生じることもあります。そのような場合は,そのずれを被面接者が自覚しているような場合は,言葉になりきらない個人的体験をさらに明確化することもあるけれども,自覚していない場合は,慎重に扱い,その矛盾を無理に追求せず,記録にとどめておくことも多いと言われます。

いかにせよ,面接においては,けっして「わかったつもり」にならないように,あいまいなことについては確認の質問をしながら,被面接者の語りを引き出していくことが重要と言われます。

そのための「問いかけ」には,「閉じた質問」(closed question)と「開いた質問」(open question)と呼ばれる2種類があります。

閉じた質問」とは,「学校に行くのは嫌いですか?」というように,「はい」あるいは「いいえ」で回答できるような問いかけで,このような問いかけは(「学校が好きではないだろう」というような)面接者の思い込みや仮説を押しつける問いになりやすい傾向があります。また,会話内容が必要な情報を得るだけになりがちで,被面接者は事務的な応答になりやすく,それによって気持ちや感情などの表現がなされにくいと言われます。

これに対して,「開かれた質問」は,「学校に行くことについてあなたはどう思いますか?」 というような質問で, 被面接者は自由な回答が可能であり,それにより 深い情報が得られやすいと言われます。他にも 開いた質問の代表的な例としては,「どのようなことでいらっしゃいましたか?」というように会話への導入を図る質問や,「それを具体的にお話いただけますか?」というように具体例を聞くような質問,「それでどうなりましたか?」というようにその後の経過を尋ねる質問,「その時どのように感じましたか?」というように感情を尋ねる質問などがあります。

閉じた質問は,深く考えないで簡単に答えられたり,話の苦手な人でも答えやすいことから効率的に情報を収集するには向いていますが,話をすることによって被面接者が自分の状況や気持ちを整理するのには向いていません。そのため,被面接者の自由な語りを引き出すためには,開いた質問を上手に用いることが必要といえます。

 

面接者の基本的態度

アメリカの臨床心理学者ロジャース(Rogers, C. R.)は,「来談者中心療法」という心理療法を提唱しました。彼によれば,面接者が,来談者の話をよく傾聴し,来談者自身がどのように感じ,どのように行きつつあるかを真剣に受け止めていけば,来談者自らが気づき,成長していくことができると言います。来談者中心療法は,「非指示的療法」あるいは「パーソンセンタード・アプローチ」とも呼ばれます。彼が提唱した被面接者との間の信頼関係形成に必要な面接者の態度は,「傾聴」の技法として,心理臨床的面接を含む面接法における面接者の基本態度として広く知られていますので,それを紹介します。

共感的理解

自分流に理解したり,わかったつもりになるのでなく,相手の体験にじっくりと耳を傾けていく態度。

無条件の肯定的関心

相手が表現するどんなことにも,優劣や善悪,好悪といった評価をせず,関心をもって受け入れていく態度。

自己一致

相手の体験に耳を傾けながら,同時に自分の中に起こってくる感情や思考にも目を向け,それらをごまかさずに吟味して受け入れる態度。

 

面接法の限界と可能性

コミュニケーションという方法に依存する面接法には,必然的に,それが「言葉」に依存する研究法であるという限界があります。したがって,被面接者の年齢や知的能力,言葉での表現能力や語る内容の意識化の程度,語る内容に対する不安や抵抗の程度などによって,情報の量や質が影響を受けるという点は避けられない問題となります。また,言葉のデータは質的データであるため,量的データのように統計法を用いた科学的分析を適用するのは容易ではありません。

また,面接法は,面接者と被面接者の「関係性」に大きく影響される研究方法といえます。そのため,面接者の態度や,被面接者との関係が,面接で得られる情報の内容や量を左右し,結果として,情報の信頼性や妥当性にも影響を与えてしまう恐れがあります。

さらに,面接法では,面接者の「感性」や「洞察力」が問われます。面接者の感性や洞察力が,被面接者の言葉の理解や,被面接者の非言語的情報の理解を左右します。また,面接者自身の自己観察の繊細さや正確さによっても,面接で得られる情報は影響を受けます。そういう意味では,面接法は,面接者の主観を通した研究手法であり,客観性に欠けるといえます。

しかしながら,前回の性格検査の解説で,何事にも良い面もあれば悪い面もあるとお話ししたように,面接法がもつこれらの短所は,逆の見方をすれば,面接法がもつ可能性をもたらすと言えるかもしれません。たとえば,「言葉」によって得られた膨大な質的データは,単なる数値に還元できない多様な情報源となり,ひとりの人間としての対象者の理解に役立ちます。また,面接者と被面接者の「関係性」に依存する方法だからこそ,臨床研究においては,単なる情報収集の手段としての研究法にとどまらず,その関係性を基礎にして治療的関係を発展させたり,支援に結びつけることも可能になります。さらに,面接者としての技量を磨くことによって,ときに「感性」や「洞察」による発見をもたらす可能性もあります。

 

おわりに

これまでの授業で,心理学における主要な研究方法として,観察法,実験法,調査法,検査法,面接法についてご紹介しました。人間がかかわるあらゆる問題に人の心は影響を及ぼしますから,心理学の研究対象は極めて多岐に渡ります。そこで,心理学の中には,実験心理学,知覚心理学,認知心理学,生理心理学,神経心理学,学習心理学,動物心理学,比較心理学,発達心理学,乳幼児心理学,児童心理学,青年心理学,高齢者心理学,生涯心理学,教育心理学,学校心理学,社会心理学,集団心理学,産業心理学,環境心理学,家族心理学,臨床心理学,健康心理学,性格心理学,犯罪心理学,障害児心理学…なんて,思いつく主要なものをちょっと書き出しただけでうんざりするような量になるたくさんの専門領域があるのです。これらの専門領域が合わさって心理学という学問ができていて,その中で「人間」の研究が行われています。みなさんは4年間を通して,これらの専門領域を学んでいくことになりますし,3年生からは専門のゼミに所属したら,この中のどれかに軸足を置いて心理学の「研究」をすることになります。

「人間」という存在をひとつの「山」に例えるなら,これらの専門領域は,山に生える植物を研究したり,山に住む動物を研究したり,川の流れを研究したり,山頂を目指して探検したり…山のいろんな側面について研究しているようなものです。その中で,「研究法」とはどのような存在なのでしょうか。例えば,山頂を目指すにしても,ふもとから歩いて登ったり,車で山頂近くの駐車場まで一気に登ったり,ロープウェーで観光したり,あるいはドローンで山頂探検をしたり,衛星写真で見るなんていうような「方法」も考えられます。その方法の違いなのですね。…で,何をいいたいかというと,方法が違えば,それによって必然的に見える景色も違ってくるはずなのですよ。

人間研究も同じです。単なる「研究法」ですが,異なる研究法を使うと,同じ「人間」でも 見えるものが変わってきます。だから,ひとつの方法だけで見た景色ですべてを知ったつもりになっちゃだめなのですよ。方法が変われば,また違う発見ができるのが人間研究のおもしろいところなのです。

せっかく心理学を学んでいらっしゃるのだから,さまざまな専門領域を広く学んでほしいと思いますし,いろんな研究手法を実際に使えるようになってほしいと思うのです。すると,心理学は何倍もおもしろくなると思いますよ (^^)。

 

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引用文献

  • 前川 あさ美(2017).面接法―個別性と関係性から追究する人間の心― 高野 陽太郎・岡 隆(編) 心理学研究法―心を見つめる科学のまなざし―(補訂版)(pp. 257-283) 有斐閣