(公開日:2020年6月24日)
検査法の0回目で,みなさんに性格検査をやっていただきました。6/23(火)にその結果を集計して,登録されたメールアドレスへ個別にお送りしましたが,届きましたでしょうか。
お送りしたメールには,下のような形でそれぞれの人の結果を記載しました。まず,13項目の特性について,得点が数値で表記されています(一番最後の項目は性格特性ではありませんが)。また,「高め」「やや高め」「標準」「やや低め」「低め」の5段階の評価をつけました。この得点は20点満点なのですが,この人は「社会的外向性」は19点で高めです。人と広く付き合う傾向がある人のようです。「活動性」も15点で「高め」となっていますね。でも,その下の「共感性」を見てください。「共感性」は18点あるのですが,「高め」ではなく,「やや高め」となっています。今日は,どのような仕組みでこのような結果が出るのかを説明しながら,実験法,調査法でもお話しした「心を測る」方法について,もう一度復習してみようと思います。
今回体験してもらった性格検査は,柳井・柏木・国生(1987)によって開発された「新性格検査法」という検査です。前回の授業で,性格をとらえる方法には「類型論」と「特性論」があるとお話ししましたが,この検査は特性論に基づいて作られていて,性格という複雑なものを,12の特性でとらえる仕組みになっています。キャッテルの性格特性も12因子でしたし,YG性格検査も12因子でしたが,他にも「ビッグファイブ」と呼ばれる性格理論に基づいた5因子性格検査などもあって,性格を構成する因子数はさまざまです。
このような特性論に基づく性格検査は,その作成段階において因子分析が用いられます。
よくやられる方法では,まず,性格を表していそうな言葉をたくさん集めてきます。キャッテルの12因子研究でも,オールポートが収集した4500以上の単語を基本にしていました。これらの中の似たような単語をまとめたり整理して仮の性格検査を作ります。あるいは,すでに先行研究がある場合は,性格特性は大体こんな潜在因子からできているという情報がありますので,そこから性格の因子構造を仮説的に構築して,質問項目を構成することもあります(今回の新性格検査の開発においては,この方法がとられています)。こうやって作られた仮の性格検査をたくさんの人にやってもらいます。その結果を因子分析にかけて,因子数などをもとに性格の構造を明らかにして,その性格構造上不要な項目を削除するなどして,さらに質問項目を整理します。このように尺度化を行った質問紙を,またたくさんの人にやってもらって,因子分析をして,因子数が妥当か,質問項目(尺度)が測りたい性格因子をきちんととらえているかなどをチェックして,最終的な質問紙にします。柳井・柏木・国生(1987)の論文にはこの過程が書かれています。数字だらけだし,難しくて何書いてあるかわからないかもしれませんが,こんなものなんですよ。前回のたとえ話で使った「料理の味」を,味覚センサによってとらえられるように,「性格」については統計的手法によって性格を科学的に分析して,センサとしての「尺度」(ものさし)を作るのです。
こうやって作られた新性格検査の質問項目は130個ありますが,それは,13の尺度ごとに10ずつの質問で構成されています。13の尺度は,12の性格特性因子と1つの虚偽尺度からなります。それらを簡単に説明します。
自分の検査結果の性格特性を,これと照らし合わせて見てください。
以上が,新性格検査が測定する12の性格因子で,最後の「虚構性」尺度は,一般的には「虚偽尺度」と呼ばれるものです。
検査は,それぞれの尺度について,10項目ずつで構成されています。通常は,質問文に対して「はい」と回答すると,その傾向があるということになるのですが,質問項目の中には「逆転項目」と呼ばれるものも入っていて,そちらは「いいえ」と回答すると,その傾向があるとみなされます。
得点化においては,「はい」(逆転項目では「いいえ」) を2点,「どちらともいえない」を1点,「いいえ」(逆転項目では「はい」) を0点として得点化します。
心理学を学ぼうとするみなさんには,考えていただきたいことがあります。
一般の人たちは,「性格」というものを問題にするとき,つい「良い性格」とか,「悪い性格」というように価値観をもって性格をとらえる傾向があります。だから,自分をよく見せようとするので,虚偽尺度なんてものを検査項目に紛れ込ませる必要があるわけですね。
でも,人がもつ「個性」のひとつとして性格をとらえる際には,ぜひこの価値観を切り離して,性格をとらえてほしいと思うのです。良い・悪いという目で性格を見ていると,そこには必ず評価のバイアス(偏り)が生じますし,それが偏見や先入観をもたらして,「こうあるべき」という態度を私たちの中に作ったり,それが高じて,「こうでなきゃいけない」,「こうだからダメ」…とつながっていくように思うのですよ。
「性格」とは個人の中にある,比較的「変わりにくい特性」です。変われないものに対して「ダメ」と言われて,あなたはそれを改善できますか? 「なんで,あなたはいつもこうなのよ!(だからダメなのよ!)」と言われて,自分を変えられた人なんてどこにもいないと思います(なのに,そういう親が多いのが不思議ですよね ^^;)。
性格とは,人間がもつ行動のばらつきを説明する概念であって,それによって私たちの行動には多様性がもたらされますし,多様性には「良い」とか「悪い」はありません。また,逆に言えば,どんな特性にも,良い面があるし,悪い面もあるのですね。
例えば,人より自分が劣っていると感じてしまう「劣等感」が高かったとしても,それは「向上心」の裏返しであると考えられます。自分を向上させたいと思わなければ劣等感は生まれませんからね。「神経質」なのも,感受性が高い証拠ですから,それをプラスに使っている人は,他の人が見過ごすような細かなことにも気配りができることから,社会に出ると高い評価をもらえます。「攻撃性」も,心の内側にエネルギーをもっている証拠ですので,そのエネルギーを上手に使えば,いろいろなことを成し遂げるための力として使えます。
これだけは専門書などでも低い方がいいと書かれている「抑うつ性」についても,私は,単にくよくよ考えることの結果として表れてくる指標だと感じています。いろいろ考えて思いを巡らすことは決して悪いことではありません。でも,「くよくよ」になっちゃう思考と,ならない思考があるのですよ。違いはどこにあるのでしょう。その違いは,たぶん,変えられることで悩んでいるかどうかだと思います。身の回りのいろんな問題事には,自分の力で変えられるものと,変えられないものがあります。たとえば,「過ぎ去った過去のこと」はもう変えようがありません。そういったことで悩むと「くよくよ思考」になっちゃいます。何事にも,自分の力が及ぶところと及ばないところがあって,くよくよ思考になる時って,力が及ばないところで悩んでいるわけですね。考えても成果があがるはずがなくて,それがわかっているから「くよくよ」してしまうのですよ。ひとりで解決できなくても,協力が得られれば解決できることだったら,その方法を考えるようにすれば,たぶん前向きになれます。うまく書けないけど,そんなものなんです (^^;)。
「性格」も簡単には変えられないものなので,性格で悩むのは悩み損になることが多いと思います。でも,「行動」は自分次第で変えることができるんですね。だから,行動を変えるスキルを身につけて,行動を変えていけば,結果として自分を変えられます。
私自身は、公認心理師でも臨床心理士でもなくて,大した研究もしていないのですが,医療や福祉、教育、産業のフィールドでいろいろな(個性豊かな)方たちと広く関わっていて(それが私の研究室の特色なのですよ),その中で,このような感じで個性をとらえています。これは他者を理解する際にも役に立ちますが,自分を理解する際にも役立つ考え方だと思っています。
話を「研究法」に戻しますね。性格検査で使われる「尺度」について説明しながら,得点の標準化の話をします。みんなもう慣れてきて,うすうす予感はしていたと思いますが,ここから難しくなります (^^;)。
まず,テスト成績を例にして話を始めさせてください。うちの大学にもありますが,得意とする1科目受験での入学試験を行ったとします。同程度の学力をもつ受験生が100名ずつくらい,3つの科目のどれかを受験しました。その結果,下の図のような得点分布が得られました。平均点を調べたら,英語と数学は65点,国語は72点でした。これで合格判定が行われたら…ちょっと不公平な感じがしますよね。国語を受験した人が有利になってしまいます。また,英語と数学は平均点は一緒なのですが,分散(ばらつきの程度)が違いますので,数学で75点取った人と,英語で75点取った人を同等に扱っていいとも考えられません。
そこで,違う科目の得点,言い変えれば,異なる尺度(ものさし)で測定された得点を比較するときには,「標準化」という手続きがなされることがあります。標準化は「平均」と「標準偏差」(SD)を使ってなされます(計算式は下の通りです)。上の図では,国語の標準偏差は5.5,英語は8.0,数学は4.0となります。
みなさんが知っている「偏差値」では,得点の分布を,平均が50,標準偏差が10になるように調整がなされますが,心理学を始め,科学的にデータを扱うときには,平均を0,標準偏差を1とした「z得点」と呼ばれる標準得点が使われるのが一般的です。すると,全体を100%としたとき,正規分布だったら平均から±1SDの間には68.2%(34.1% × 2,注:実際は丸め誤差の繰り上がりによって68.3%になります)のデータが入るなどといったことが予測できるわけです。
今回の性格検査は,(残念ながら公認心理師カリキュラムへの対応でなくなっちゃいましたが ;_;)「心理学情報処理演習」という心理学のためのデータ分析の授業があって,そこで実習材料に使っていましたので,これまでに344名(男子161名,女子183名)のデータがあります。そのデータから,性格特性ごとに平均と標準偏差を見てみましょう。下に示したように,尺度によって平均点が異なることがわかります。したがって,20点満点の得点のままでは,自分の位置づけがわからないし,外向性と共感性のどっちが高いのかなんて比較も不可能なので,データの標準化を行わなければなりません。
ただ,標準化を行おうとしても,調査法のところでお話ししたように,単に質問紙で得られた得点は「順序尺度」にしかすぎず,「間隔尺度」とは言えないのです。この点は,性格検査のように幅広く利用される検査を開発するときにはとても重要なことで,上の平均値や標準偏差をうのみにはできないのですよ。また,下に,得点が何点の人が何人いたかという実際の得点分布を示しますが,尺度ごとに見ると,とても正規分布とは呼べないような形をしているものもあるのですね。もちろん,検査を開発するときには,被検査者を最低でも1000名くらいは募集するのですが(新性格検査開発のときは957名だそうです),それでも,分布のデコボコは少しは減るでしょうが,尺度が間隔尺度でないという限界からは逃れられません。受験予備校なんかのデータは,人間の特性を測定する際のこのような問題を考えずに計算しているので(つまり,上の表のような結果を使って単純に偏差値を計算しているので),偏差値8とか,偏差値108なんてとんでもない数字がでることがあるんですね。
そこで,心理検査を作るときには,しばしば,累積確率を使った標準化が行われます。正規分布のところでお話しした全体を100%としたときの区間ごとの割合を,その得点以下の人は何%いるのかという合計指標にするのです。すると,正規分布ならば,下の図のようになります。
344人のデータを使って,尺度ごとに累積確率の分布を描いたらどうなるでしょうか。それを図にしたのが下ですね。上の得点分布のように暴れまくっている感じがなくなって,かなり見られるようになりました。順序尺度ですから,得点が10点の人は9点よりは上で,11点よりは下というのは間違いありませんから,この累積確率の分布曲線には十分な意味があります。
そこで,最初に示した,実際に得られた得点の分布はきれいじゃなかったけど,それは尺度が間隔尺度じゃないなどの限界のせいであって,人々の心の中での性格特性も正規分布するはずじゃん!…という仮定をおくことで,上の累積確率をもとに標準得点との対応づけを行います。累積確率はデータとして得られているし,正規分布において累積確率がわかれば,(上の上の図のように)標準得点である z得点は求められるので,それを計算するわけです。すると下の図のようになります。
このようにすれば,順序尺度でしかない得点を使って,間隔尺度としての標準得点を(理論的には)得ることができるのですね。もちろん,今回お示ししたデータは,すべて社会臨床心理学科の1年生のデータを使っています。学科によっても学生さんたちのキャラ(文字通り性格)が違うところがありますので,今回のデータは単にひとつの参考と思っていただければと思います。
また,私たちの個人特性には,男性と女性で違い(性差)がみられることがあります。性格もその例外ではありません。下の表は,男女の違いについてt検定で調べたものですが,アスタリスクが1つのものは5%水準で,2つのものは1%水準で有意差がみられた尺度です。活動性,進取性,自己顕示性は男性の方が高く,劣等感は女性の方が高いという性差がみられています。したがって,検査を開発するときには標準化の作業を男女ごとに分けて行うこともしばしばです。そのことも覚えておきましょう。
ちなみに,下の図は,YG性格検査のプロフィール表です。YG性格検査も,ひとつの性格特性尺度あたり20項目の質問項目で構成されているので,20点満点の得点が出てくるのですが,その得点を尺度ごとに,男性は上段,女性は下段の得点に印をつけることで,その人の特性が,1~5の標準得点のどこに位置しているかを知るようになっています。1段階はz得点が-1.5以下,2段階は-1.5~-0.5,3段階は-0.5~0.5,4段階は0.5~1.5,5段階は1.5以上となっています。また,標準得点の下には「パーセンタイル得点」あるいは「パーセンタイル順位」というのですが,累積確率値が表記されています。今回みなさんにフィードバックしたコメントも,YG性格検査の5つの段階に応じて,「低め」,「やや低め」,「標準」,「やや高め」,「高め」と表記しました。
やっぱり最後はちょっと難しい話になっちゃいましたね(笑)。でも,性格検査も,知能検査も,このような仕組みによって標準化された指標で,人の個性を測定して調べるように作られているのです。
なお,心理検査は,それぞれ,開発された背景にある理論(背景理論,基礎理論)が異なりますし,測定可能な心理状態の水準も異なります。それによって,検査が向いている対象者も変わってきます。したがって,1つの心理検査だけでは,対象者(クライアント)の性格(パーソナリティ)や適応の状態を評価することはできません。そこで,対象者のパーソナリティや心理社会的問題,精神病理などの全体像をできるだけ正確かつ多面的に理解するために,複数の心理検査を組み合わせて実施するのが一般的です。これを「テストバッテリー」と言います。
臨床場面においてテストバッテリーを構成するときには,質問紙法検査が意識レベルの心理を測定するのに使われます。それに対して,投映法検査は,無意識レベルの心理を測定するのが得意ですし,対象者について重要な手がかりを与えてくれる場合があります。また,知的レベルを評価するのには知能検査が使えます。他にも,神経心理学検査という,器質性の脳損傷患者(高次脳機能障害患者)が呈する認知障害等を評価するための検査もあります。「器質性」とは脳そのものの問題を指すのですが,気分や性格の著しい変化や,知的機能の低下,思考の障害,妄想や幻覚,奇妙な思考,偶然の出来事などを自分や他人に結びつけてとらえてしまう関係念慮や被害念慮といった,精神疾患で典型的な症状は,脳の疾患や障害でもみられますので,それを見極めるための手がかりを得ることも臨床現場では重要です。
具体的に検査を実施する際の注意としては,まず,クライアントさんは,検査でどのようなことが行われるかを知らず,それによって不安を感じていらっしゃることが多くあります。そこで,検査開始前には,検査内容についての詳しい説明が必要です。また,病的な状態では,患者さんは検査の必要性がわからないことも多いので,検査を行う理由と,その結果がクライアントさんの日常の状況や問題とどのように関連するかを説明することも重要です。クライアントさんは,日常生活において,心理社会的な問題領域を抱えていることがほとんどですから,検査結果についてのフィードバックを与えるときも,それが,問題領域に立ち向かうために役立つことを知らせることも大切です。また,検査経験自体が,少なからずクライアントさんの自尊心に影響を及ぼす可能性がありますので,検査において一義的に「正しい」答えや「良い」反応というものはないことや,知能検査には,課題が簡単すぎて満点が出てしまう「天井効果」を避けるために,わざと難問が入れてあることなどを理解させることも重要になります。
ちなみに,先週の金曜には,発達障害者の就労支援を専門にされている方が,利用者さんが病院で受けてくるウェクスラー知能検査の結果の見方と,実際にどのような検査が行われているかを知りたいとおっしゃっていたので,うちの大学院生に協力してもらって,検査を体験してもらったのですが,「こんな大変な検査とは知りませんでした」,「利用者さんに気安く『検査受けてきてみたらー』なんて言えませんね,これ…」とおっしゃってました。検査によっては,そのくらいクライアントさんに負担をかけるものもあるので,快適な検査環境を用意したり,適切な休息時間や飲み物を与えてリラックスできるようにしたり,検査を複数回に分けて行うかどうかをクライアントさん自身に選択してもらうなど,いろいろな配慮も必要になります。
詳しいことは,3年次の「心理演習B」などで実際に習うことになりますので,そのときに,今回の授業のことも思い出していただければ幸いです。
お疲れさまでした。