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(公開日:2020年4月14日)

「心理学って,どんな学問なの?」

こう聞かれたら,みなさんは何と答えますか。

心理学がどういう学問なのかの答えは,「心」,「理」,「学」というそれぞれの文字に含められています。

心理学は,言うまでもなく「」を対象にした学問です。でも,「心って何だ?」なんて考える学問は心理学だけではありません。古くは,哲学が「心とは?」とか「人間とは?」というようなテーマについて研究していました。心理学は,その哲学から分かれて生まれた学問なのですが,哲学のように「考える」ことによってその答えを求めるのではなく,科学的な(理学の)方法を用いることでその答えを求めようと考えたのです。つまり,心理学は「科学」になることで哲学から分かれたと言えます。

心理学は「行動の科学」

心を科学的に研究しようとすれば,どうするのがいいのでしょうか?

なんでこんなことを聞くかというと,もし,あなたがネコが大好きで「ネコの研究がしたい!」と考えるなら,まずどうしますか? 答えは簡単,ネコを捕まえてきて,「ここにひげがあるんだ」とか,「昼間は目の形が変わるんだ」,「舌がザラザラだね」なんて,見たり,さわったりして調べようとしますよね。

ならば,「心」を研究したいなら,心を捕まえてくればいいわけです。…でも,心って,どうすれば捕まえてくることができるのでしょう。心そのものは,手に取ってさわることもできないし,直接的には目にすることもできません。でも,直接見えるもので,心の手がかりになる重要なものが存在します。それが「行動」です。

みなさんも,「〇〇さんっていい人だよね」と言うとき,〇〇さんの心について言っているのだけど,それはその人の行動を見て,その結果として「いい人」なんだと判断しているのではないでしょうか。

行動こそが目に見える心の重要な手がかりなのです。

そこで,心理学は「行動の科学」と呼ばれます(心理学を知らない人ほど,心理学を「心の科学」と思いがちですが,行動の科学と呼ばれることは覚えておきましょう)。

行動を調べる方法

心理学が「行動」を研究対象とすることはわかっていただけたと思いますが,どうやったら行動を調べられるのでしょうか。実は,この行動を科学的に調べる方法こそが「心理学研究法」なのです。

では,行動を調べる方法にどんな方法があるのか,以下に5つの代表的な方法をお教えしましょう。

観察法

人間を研究するのにもっとも基本的な方法は行動観察でしょう。みなさんも,街でいろんな人の行動を目にして,「この人ってこんな人じゃないかな」なんて人間観察を楽しんでませんか。この観察法は,心理学においてももっとも基本的な方法として古くから使われてきました。でも,欠点もあるのです。私たちは,偶然注意が向いたものや目立つものをより重要なものとしてとらえがちです。世間を騒がせる少年犯罪などの問題があったとき,「目立たない普通の子だったのですが」なんて話をよく聞きませんか。実際,私たちが行う日常の観察には,どうしても限界があるのです。

実験法

理科でよく使われる「実験」という方法は,研究法でいうと「観察」法のひとつなのですが,自然な状況で何かをぼけーっと見るのではなく,積極的に条件操作することで人の行動がどのように変わるかを調べます。たとえば,こんな実験を考えてみましょう。みなさんたちを2つのグループに分けて(AとBとしましょう),それぞれにクッキーを食べてもらいます。ただ,グループによって条件が違って,Aのグループは20個のクッキーを食べます。それに対して,Bのグループは2個のクッキーしかもらえません。その後,クッキーがどのくらい美味しかったか,それぞれのグループに10点満点で答えてもらいます。すると,大体,Bのグループの人たちの方がAの人たちよりもクッキーがおいしかったと高い得点を答えます。希少性の法則と呼ばれる現象ですが,たくさん手に入るものよりも,少ししか手に入らないものの方が,より魅力的に感じさせる力をもつことがわかります。

この実験の例では,クッキーの数が実験者によって操作され,その効果が10点満点で評価させた参加者のおいしさ得点影響を及ぼしています。このとき,実験者が条件として操作するもの (例えば,クッキーの数)を「独立変数」と呼び,それに影響されて変わるもの (例えば,おいしさ得点)を「従属変数」と呼びますので覚えておきましょう。

調査法

ある質問項目に対して,「あてはまる」-「どちらでもない」-「あてはまらない」というような回答を求めることで,その人がもつ心理的な態度や特性を測ることもできます。たとえば,「初対面の人には自分の方から話しかけることが多い」という項目について,あなたが「あてはまる」-「どちらでもない」-「あてはまらない」のどれかを選んで回答するならどれになりますか? その回答は人によってそれぞれなのですが,この項目に「あてはまる」と答えた人は性格的に「外向」といって,人づきあいを好む傾向があるはずです。それに対して,「あてはまらない」と答えた人は性格的には「内向」的で,どちらかと言えば人と広くつき合うのは苦手とするタイプではないでしょうか。心理学では,人の態度や特性を調べるために,このような質問項目に対する回答を調べる方法があり,これを「調査法」と呼びます。俗に「アンケート」といわれる質問項目をまとめた用紙は,心理学では「質問紙」と呼びますので覚えておきましょう。

検査法(一部書き換えました)

上の調査法の例で使った「初対面の人には自分の方から話しかけることが多い」は,性格的に外向の人なら「あてはまる」,内向の人なら「あてはまらない」と答える傾向がありますので,この回答を調べると,その人の性格を調べることができます。他にも「ちょっとしたことが気になる」なんて項目を使えばその人の「神経質」の程度を,「困っている人をみるとすぐに助けてあげたくなる」という項目を使えば「共感性」の程度を測ることができるでしょう。このように,性格特性を測る質問項目をたくさん集めることで,「質問紙法」による「性格検査」が作れます。これを「検査法」と呼びます。検査法は,性格を調べるだけでなく,「知能検査」といって知的発達の状態を調べるものもありますし,精神疾患などの診断補助に使われる検査もあります。先にあげた「調査法」が,社会心理学という分野でよく使われ,集団がもつ物事に対する評価や態度を調べるのに対して,「検査法」は,臨床心理学の分野で主に使われ,ひとりひとりの個人がもつ性質を調べるのが違いといえるでしょう。

検査法は質問紙を使うだけでなく,「投映法検査」といって,人によって見方や受け取り方が違うような刺激(絵など)を与えて,それを人がどのように解釈したり,想像するかを調べることで,より無意識的な特性を調べる試みにも使われます。この投映法検査には,インクのしみが何に見えるかを調べるロールシャッハ検査や,絵を見せて物語を作らせるTAT検査(絵画統覚検査),白い用紙に1本の実のなる木の絵を描いてもらうというバウムテストなど,さまざまな種類のものがあるので,興味がある人はぜひ調べてみてください(それぞれの検査がいろいろな理論的背景をもって作られていて,奥が深く,おもしろいですよ)。

面接法

心理学と言えば,「カウンセリング」(心理面接)を連想する人は多いのではないでしょうか。「面接法」は特に臨床心理学領域でよく使われる研究法で,訓練された面接者セラピスト)が,対象者クライアント)と面談しながら,対象者の状態や特性について調べる方法です。また,面接法では,対象者についての資料を得るだけでなく,必要であれば対象者に対して治療的・援助的な介入を行うこともできますので,カウンセリングという技法として発展してきています。

この授業で学ぶこと

心というものは,物ではないので,実際に手に取ってみて調べるということができませんが,その特性は行動の中に現れるので,行動を調べることで心について研究しようと心理学は発展してきました。でも,単に日常での人のふるまいをボケーっと観察していても,科学としての研究は成り立ちません。そこで,心理学では,上に述べたような心と行動を研究するための方法が工夫されてきました。この工夫の歴史が心理学の歴史といっても過言ではありません。

この授業の目的は,心理学の中で開発されてきた研究法についてみなさんに知ってもらうことです。内容的には1年生には難しい用語や概念がたくさん出てくるかもしれませんが,社会臨床心理学科では,例えば,実験法であれば1年生後期に「心理学実験」が,調査法であれば2年次前期に「心理学研究法B」が用意されているというように,この授業で学習することのすべては,次の授業でより深く学んだり,実際にやってみる(使う=演習科目)ことで身につくようなカリキュラム(授業構成)になっていますのでどうぞ安心してください。

それでは,こんな形の授業になってしまいましたが,とりあえず前期の間,私(吉田)がこの授業を担当しますので,お付き合いいただければと思います。よろしくお願いします。

 

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