AIイメージ論争

私が担当する科目のひとつに「知覚・認知心理学」という授業があって,今週の講義では「心的表象」(心の中にある外界の事物の表現)について取り上げました(このテーマについてより詳しく知りたい方は公開版「知覚・認知心理学」の「11: 表象と知識」をご覧ください)。

 

簡単に「心的表象」について知りたい方のために,ChatGPTくんに説明してもらいましょう!

 

認知心理学の授業において,心的表象を扱うときに欠かせないトピックがあって,それが「イメージ論争」。

「『イメージ論争』って何なのよ?」という方は…はい,これをどうぞ!

 

「先生,これでいいんですか?」と思った方には同感! AIは便利だけど,今,私たちはこれに頼りすぎじゃないの?…という危機感を私も感じます。

 

そこで,最近,新しいAIの使い方を発見しましたよ!

授業をしていて学生がつまらなそうに話を聞いているときなんか,つい,学生に質問して困らせたくなることがあります。でも,いじられるのに慣れていない学生さんなんかもいるし,「いじる=アカハラ」になってしまうかもしれません。

 

そこで…非生命体であるAIいじり!…です。

いじられ役はChatGPTくん。

 


 

イメージ論争において,私たちが心の中にもつイメージが「視覚的なもの」だというアナログ説を支持する研究のひとつに,Shepard & Metzler(1971)のメンタルローテーション(心的回転)の実験があります。彼らは,2つの3次元物体の像を提示して,それらが同じものか,違うものかを判断させる実験を行いました。実験の結果,2つの物体像の回転角度の差が大きくなるにつれ,反応時間が比例して長くなりました。この結果から,私たちは物体のイメージを3次元的な視覚的表象としてもっていて,それをこころの中で回転させているのだと考えたのです。

 

授業では,AIであるGPTくんがアナログ表象をもっているかを検証します。

まず,「あなた立体のことわかるの?」って聞いてみました。

できそうなことを言ってますので,下の画像をアップロードします。

GPTくんの答え(↓)…ふふふっ…いじれそうですね。

 

いじります!

 

GPTくんの答え(↓)…はぁ?

 

自信満々に「この回答は役にたちましたか?」というので…

相手を否定するときは「ネコ語」にすることにしている…なんて冗談ですが,致命傷を与えるのが目的ではない。ネコだって仲間にはちゃんと爪を隠してネコパンチします。教育においてもそれは大事なのでやさしく?否定しましょう。

 

こちらのノリだけはわかってくれたらしく,ネコ語で同調しながらも,「ピンと来なかったんだね」なんて問題がこっちの側にあるかのような言い訳をするGPTくん(↓)。相変わらずの「上から態度」で提案をしてくる。

 

そこで…GPTくんの前提の致命的な欠陥を指摘する…ネコ語でやさしく。

 

通じたようだ…。でも本当かよ? 自分の側にミスがあることを認めたものの,AIがどうやって早とちりするん?

 

…で,GPTくんが描いた右から見たイメージがこれ(↓)。不可能図形じゃん!!!

 

内省力が果てしなくゼロらしいGPTくん,うんちくたれてまとめに入る。

10個という個数だけはわかってくれたのかと思ったのに…どこが14個だよ。あなたの負けよと引導を渡す。

 

 

負けを認めつつも…まだ「別の角度」が描けると豪語するGPTくん。このメンタルの強さを学生たちにも見習ってほしい!

 

人類1勝!

 


 

3次元の立体を認識するのはGPTくんには荷が重かったのかもしれません。そこで,次のお題は2次元の平面図形から選びます。それは,我々が視覚的なイメージに対しても言語的表象である「命題」を用いていることを示唆したこの図形…ダビデの星!

Reed(1974)の実験では,この図形に「三角形」が含まれているかどうかという判断は,80人中71人(89%)の実験参加者が平均1.59秒で正しく「はい」と判断することができた。それに対して,「平行四辺形」が含まれているかどうかの判断にかかった時間は1.78秒に伸びただけでなく,正しく「はい」と判断できたのは,78人中11人(14%)にすぎなかった。

このことから,この図形は,「正立と倒立の2つの三角形からなる」というように,心の中で命題的に定義されている可能性が示唆されたのです。

 

図形をアップロードしただけで,うんちく(↓)を披露しはじめるGPTくん。でも「平行四辺形」の存在には言及していない…気づいていないのかも…シメシメ。

その後も,「もしこの記号について、宗教的・歴史的・数学的な側面からさらに深く知りたい場合は、そちらにも対応できますのでお知らせください。」なんて言ってくるが,知りたいのはそんなんじゃないよ…お前の心の中身だよ…ふっ。

 

いじり開始!

瞬時に回答が返ってきた。

 

そして,得意のうんちくがはじまる。まるで大学教授みたい…。

 

なんと「平行四辺形」を図で示してくれるらしい(↓)。ぜひ,お願いします!

 

 

…で,出てきた絵…。

 

 

はぁ????

不正解なだけでなく,何なのよこの謎の補助線…。

 

すかさずつっこみのネコパンチをかます。教授として恥ずかしながら,「平行」の字が間違ってるところなんかに動揺が表れてます…ネコパンチはする方もビビってる。

 

そんな私のへなちょこネコパンチにあわてるGPTくん…。相手がこっちよりビビると勝った気になる。つっこみって楽しい~っ!

 

なんか絵文字が出るようになってきたよ(↓)。コイツ誤魔化してるなとよくわかる…いるよね,こんな人。

 

…で,出てきた図…。変わらん…。

 

勝利確定! あなたの負けよと伝える…。

 

 

いつの間にか自分を「プロねこ」と自称するGPT。あくまでもこっちより上と言いたいらしい。あきらめが悪い人ほど,つっこんでいて楽しいっていうのがわかってきた…。

 

…で,これがプロねこGPTくん渾身の作…。こんなにつっこみがいのあるやつ,はじめて出会った…。

 

 

最後にちょっとだけ自尊心をケアしてあげると…調子に乗るやつ…いますよね,こんな人。「知恵ねこ」といいながら,さりげなく「かみくだいて」なんて比喩を使ってアピールしてるけど,次は「こいつどんだけ比喩わかってんかよ」をテストしようか…。

 

人類2勝目!

 


 

…で,実はこの結果はある程度は当たり前のことであって,ChatGPTはLLM(learge language model,大規模言語モデル)というタイプのAIで,大量のテキストデータを使ってトレーニングされた自然言語処理を得意とする人工知能なのです。だから,GPTくんの「こころ」はおそらく膨大な,しかし単なる「命題」の集合でしかない。図形についての内的表象も,たぶん認識したパーツとその関係性をすべて命題にして解釈してるんじゃないかと思う。

 

AIが間違ったことをあたかも正解のように答えることを「ハルシネーション(幻覚)」と言います。GPTくんは,私たちのように視覚的にイメージを想像できないので,「六芒星」と呼ばれるダビデの星の中に3個ではなく6個の平行四辺形が見えるようです。そして,それを正当化するために,流暢な言葉を紡いで偽りの説明を,あたかもそれが正解であるかのように作り出してしまう。でも,私たちは視覚的にイメージする能力をもっているので,彼の描いた絵を見れば瞬時にその間違いがわかります。

しかし,考えてみてください。彼が紡ぎだした言葉による説明だけを読んで,彼の誤りに気づくことができた人がどれだけいるでしょうか? たぶん,多くの人は,言葉による彼の説明だけを読んだら,それが正解であると信じて採用するに違いありません。

これが今まさに起きつつある,AI活用の怖さだと私は思っています。

 

AIは道具にしかすぎません。だからそれを使いこなすには,道具としてのAIがもつ長所と短所をきちんと理解しておく必要があります。その上で,有効な活用方法を考えたいものですよね。

 

以上,「知覚・認知心理学」から授業の一部をご紹介しました。